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ファイザー(世界1位):新型コロナのワクチン特需で2021年の売上は9兆円

主力製品はリピトールやノルバスク

ペニシリンの量産での成功を足がかりに、医薬品事業を本格的に開始し、1950年代には海外進出を始め、事業の多国籍化を進めていったファイザー

その後は、医療用医薬品、一般用医薬品、動物薬を取り扱うメーカーとして発展。医療用医薬品部門ではアメリカ国内に加え、イギリスにも研究・開発拠点を築くなど、多国籍化を推進してきました。

さらに、のちに世界売上第1位の高脂血症治療薬となる「リピトール」、髭剃り「シック」ブランド、マウスウォッシュ「リステリン」を保有していたワーナー・ランバートの買収(2000年)、消炎鎮痛薬「セレコックス」などを保有するファルマシアの買収(2003年)、関節リウマチ治療薬「エンブレル」や肺炎球菌ワクチン「プレベナー」などを販売するワイスを買収(2009年)するなど、大型買収を繰り返し成長してきました。

優れた医薬品や新薬候補(パイプライン)を持つ製薬企業やバイオベンチャーを豊富な資金力で次々と買収して収益につなげる同社の手法は「ファイザーモデル」とも呼ばれています。

近年もファイザーのM&Aの勢いは弱まっておらず、2016年には前立腺がん治療薬「エンザルタミド(アステラス製薬にライセンスアウト)」などオンコロジー領域に強いバイオ企業「メディベーション」を約1.4兆円で買収。2019年には「ビラフトビ(一般名:エンコラフェニブ)」と「メクトビ(一般名:ビニメチニブ)」など、こちらもオンコロジー領域の開発に強みを持つ「アレイ・バイオファーマ」を約1.2兆円で買収しています。

ファイザーは新型コロナのワクチンと治療薬の特需による豊富な経営資源を他の専門領域の拡大に投じており、2022年5月には片頭痛薬「リメゲパント(米国での製品名:ヌルテックODT)」を有する「バイオヘイブン・ファーマシューティカル・ホールディング」を約1.5兆円買収。同年8月には血液疾患の治療薬「オクスブライタ」などの開発を手掛けるバイオ医薬品メーカー「グローバル・ブラッド・セラピューティクス(GBT)」を約7,300億円で買収しています。

なお、イギリスの製薬最大手「アストラゼネカ」、アイルランドの製薬大手「アラガン」を約700億ポンド(約12兆円)、1500億ドル(約16兆5000億円)で買収する計画は、前者は取締役会での反対により、後者は本社移転に伴う法人税の軽減を目的とした買収を禁じた米財務省の節税規制策に抵触するとして、断念することになりました(アラガン社は米製薬企業のアッヴィが6.7兆円で買収)。

2021年、ファイザーは約9兆円もの売上高を記録し世界の売り上げで5年ぶりにNo.1の座に返り咲きました(2017年~2020年はロシュが売り上げ1位)。世界に先駆けてビオンテックと共同開発した新型コロナウイルスワクチン「コミナティ」が約4兆円を売り上げたこともあり、前年の売り上げ(世界8位)から約200%増加して一気に首位に躍り出ました。

ファイザーの重点疾患領域は、一般内科、がん、ワクチン、炎症・免疫疾患、希少疾患と幅広く、抗がん剤「イブランス」、肺炎球菌ワクチン「プレベナー13」、抗うつ薬「ジェイゾロフト」、緑内障治療薬「キサラタン」、禁煙補助薬「チャンピックス」など有力な製品を多数抱えており、なかでも「イブランス」をはじめとするオンコロジー領域の製品の売り上げが伸長しています。

2020年にノルバスク、リピトール、セレコックス、リリカなどのジェネリック医薬品と特許切れ医薬品を扱うアップジョン事業部門を、アメリカのマイラン社と統合し、新会社「VIATRIS(ヴィアトリス)」を設立しました。これに伴い日本国内では、ファイザーのアップジョン事業部門を「ヴィアトリス製薬」に社名変更し、ヴィアトリスグループとして事業を開始しました。

米ファイザーは同年、OTC(一般用医薬品)部門も切り離し、イギリス製薬大手のグラクソスミスクライン(GSK)と合弁会社「グラクソ・スミスクライン・コンシューマー・ヘルスケア」を設立する(2022年に全株式を売却)など、革新的新薬とワクチンの開発に経営資源を集中する方針を打ち出しています。

ファイザーの主力製品(売上順)
医薬品名 対象領域 売上高(21年3月期:単位は億ドル)
プレベナー (肺炎球菌ワクチン) 59
イブランス がん 54
エリキュース 血栓塞栓症 49
ゼルヤンツ 関節リウマチ 25
エンブレル 関節リウマチ 14
ビンダケル TTR-FAP(希少疾患) 13
イクスタンジ がん 10
チャンピックス (禁煙補助薬) 9
スーテント がん 8

ファイザーのワクチン研究開発部門のトップが語るワクチン開発の舞台裏

ファイザーのワクチン研究開発部門のトップWilliam C. Gruber氏が語るコロナワクチン開発(バイオテック社と共同)の舞台裏。「mRNAってなに?」レベルの初歩的な話を噛み砕いてわかりやすく説明しているので、英語でも最後まで観ることができました。ワクチン開発に成功した際、「障がいのある息子を守るために有意義なこと成し遂げた、という満足感が訪れた」、と感極まりながら語るシーンが印象的。

10年前のファイザー:「パテント・クリフ」に苦しむ主力製品の世代交代が順調

2011年12月期の連結売上高は前年比0.5%増の674億ドルで、連結構成比で86%を占めている医療用医薬品は前年比1%減の577億ドルとなりました。同社の最大製品である「リピトール」は米国、欧州での特許終了により大きく減少しました。

同じく2011年に米国で特許切れを迎えた緑内障治療薬「キサラタン」も後発品、プロスタグランジン誘導体製剤の競合品発売などにより競争が激化した影響で、米国で72%減少し、世界売上は29%減少して12億ドルとなっています。緑内障治療薬はラタノプロストとβ遮断薬のチモロールマレイン酸塩の配合剤「ザラカム」を発売しており、同市場のシェア奪回を狙います。

高血圧治療薬「ノルバスク」も2008年の特許切れ、薬価引き下げなどにより減収傾向が続いています。2010年に口腔内崩壊錠などの剤形追加をしたものの、売上の減少を食い止めるには至っていません。

今後のファイザーの主力製品として期待されているのが、前年比21%増加して37億ドルとなった神経因性疼痛治療薬「リリカ」、抗リウマチ薬「エンブレル」、抗がん薬「スーテント」などです。「スーテント」は競合するバイエルの「ネクサバール」とともに2008年に承認され、売り上げはネクサバールに大きく引き離されているものの、潜在能力は高いと思われます。

そのほか国内では非ニコチンの経口禁煙補助薬「チャンピックス」が、2010年10月のたばこ税増税の影響もあり、一時欠品状態となっていましたが、それも解消して更なる成長が期待されています。

ファイザーの主力製品として世界市場を席巻した高脂血症治療薬「リピトール」、高血圧症治療薬「ノルバスク」は特許満了に伴い、いわゆる「パテント・クリフ」に直面していますが、2009年に世界9位のワイスを買収するなど、従来の「患者数の多い低分子医薬品」から、希少疾患やがんのように細分化された「患者数の少ない高分子医薬品」に研究開発の焦点を移しており、営業体制の変革も本格化してきました。

新薬開発では、抗リウマチ薬「ゼルヤンツ」、慢性骨髄性白血病治療薬「ボスリフ」、肺がん治療薬「ザーコリ」など、1年余りで4品目の分子標的薬が承認されており、同社の高分子シフトが確実に進んでいることを印象付けました。

「ゼルヤンツ」はファイザーが自社開発した世界初のJAK3阻害剤で1日2回の経口投与で抗体医薬「ヒュミラ」と同等の臨床成績を示しました。「メトトレキサート(MTX)が効果不十分または継続困難となった成人の関節リウマチ」といの併用も可能となっています。

さらにブリストル・マイヤーズと共同開発してきたファクターXa阻害剤「エリキュース」が日米欧で2012年に承認されました。同剤は「心房細動に伴う脳卒中及び全身性塞栓症の予防」の大市場で先行するベーリンガーインゲルハイムの「プラザキサ」やバイエルの「イグザレルト」と激しいシェア争いが起きるものと予測されます。