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アステラス製薬(国内3位):イクスタンジが世界売り上げを牽引

グローバル企業として誕生

約1兆2000億円の売上(2020年)で武田薬品、大塚ホールディングに次ぐ国内第3位に位置するアステラス製薬は、海外売上収益比率が80%を超えているグローバル製薬企業です。

2005年に東京の山之内製薬と大阪の藤沢薬品工業が合併することによって誕生しました。山之内製薬は消化性潰瘍・胃炎治療薬「ガスター」、排尿障害改善薬「ハルナール」を、藤沢薬品には注射用抗生物質「セファメジン」や免疫抑制剤「プログラム」を開発したという実績があります。

これらの実績に加えて、1990年代前半から2000年代前半にかけて、藤沢薬品はアメリカに、山之内製薬はヨーロッパにそれぞれ販売網を確立しており、海外市場を視野に入れた販売戦略に定評がありました。

このようにグローバル企業を目指して誕生したアステラス製薬は、その前身企業の時代から、海外市場への進出を進めていたのです。合併後には米バイオベンチャーのアジェンシス社の買収にも成功しており、欧米両方で新薬の承認申請を活発化させています。合併に先立ち、両社の一般用医薬品事業を統合してゼファーマを設立しましたが、同社を第一三共に売却して、現在は医療用医薬品事業に特化した企業となっています。

アステラス製薬の国内・海外の売上高比率

アステラス製薬は2010年代半ば以降、パイプラインの拡充と規模の拡大を図るため数々のM&Aを行ってきました。2016年、アステラス製薬は新領域への参入の足掛かりとして、眼科領域の再生医療に特化した開発を行うバイオベンチャー「オカタ・セラピューティクス(アメリカ)」を買収。続いて主力製品「イクスタンジ」で市場シェアが高まったオンコロジー領域の更なる拡充を図るため、複数の抗がん剤の開発を進めているバイオベンチャー「ガニメド(ドイツ)」を買収しました。

2017年には創薬ベンチャーのオジェダ(ベルギー)を買収し、更年期障害治療薬「フェゾリネタント」を獲得。2018年にはミトコンドリア創薬企業のマイトブリッジ(アメリカ)、がん免疫療法プログラムに関連したバイオテクノロジー企業「ポテンザ・セラピューティックス(アメリカ)」を買収しました。

2019年には遺伝子治療薬の研究・開発を行う米バイオ企業「オーデンテス」を買収し、治療薬のニーズは存在するが患者数が少ない「希少疾病」をはじめとする遺伝子治療領域でもトップを目指す方針を打ち出しています。一方で「ガスター」や「エミレース」、「セフゾン」などの長期収載品(16品目)はLTLファーマに売却しており、収益確保の難しい事業を切り離し重点領域に経営資源を投入する「選択と集中」が明確になっています。

アステラス製薬の営業利益率の推移

2020年現在、アステラス製薬の世界的な売り上げを牽引しているのが、5343億円を売り上げた「イクスタンジ(前立腺がん治療薬:2013年発売)」で、同社の収益の約40%を占めるまでになりました。アステラス製薬は「イクスタンジ」のピーク時の売上を6,000~7,000億円を見込んでおり、適応追加も順調に進んでいるため今後も成長が期待できます。

アステラス製薬は、2010年代に入ると泌尿器、移植領域に続いてオンコロジー領域を3番目の重点領域とする成長戦力を本格化させており、この領域に特化した製品開発(分子標的薬のタルセバなど)を行っているアメリカのバイオ製薬企業OSIを買収しました。「イクスタンジ」以外にも「ゾスバタ(急性骨髄性白血病の治療薬)」、「バドセブ(尿路上皮がん治療薬)」など5品目を重点開発品として位置付けています。

国内市場では前述の「イクスタンジ」や「プログラフ」、「ベシケア(過活動膀胱治療薬)」等の自社開発品だけでなく、高脂血症治療薬「リピトール」、高血圧治療薬「ミカルディス」、入眠薬「マイスリー」などのライセンスイン製品(他の企業やバイオベンチャーの研究した医薬品)も売上高の増加に貢献しています。

過活動膀胱(OAB)治療薬の「ベシケア」は2021年に8社が後発医薬品の承認を取得していることから、売り上げの大幅な減少が必至です。ただし、同じく過活動膀胱の治療薬であるβ3作動薬「ベタニス」は、作用機序が抗コリン薬(ベシケア、トビエース、ウリトス、バップフォーなど)と異なるため、これらの副作用である「便秘」と「口内乾燥」が発現しにくいというメリットがあり、売上は成長傾向にあります。アステラス製薬は両剤でOAB市場の60%をキープしています。

アステラス製薬の主力製品(売上順)
医薬品名 対象領域 売上高(21年3月期:単位は億円)
イクスタンジ 前立腺がん 4.584
プログラフ (免疫抑制剤) 1.827
ベタニス / ミラべトリック / ベットミガ 過活動膀胱(OAB) 1,636
ハルナール 排尿障害 369
ベシケア 過活動膀胱(OAB) 316
ファンガード 真菌症 256
ゾスパタ 急性骨髄性白血病(AML) 238
セレコックス (鎮痛剤) 189
パドセブ 膀胱がん 128

2019年には「ベシケア」、抗真菌薬「ファンガード / マイカミン」、気管支喘息治療薬「シムビコート」、消炎鎮痛薬「セレコックス」の特許が切れ、翌2020年には抗がん剤「タルセバ」も特許切れを迎え「パテントクリフ(特許の崖)」の真っただ中にあるアステラス製薬ですが、遺伝子治療やヒトES細胞を利用した細胞治療という新しい領域へで研究開発に資本投入を進めています。

アステラス製薬は他の企業と同様に、新薬承認の規制緩和がきっかけで投資が拡大している中国市場にも注力しています。従来、「アジア・オセアニア」の販売部門の一部だった同国を独立させ、医療制度が似ている台湾、香港を加えた販売部門「グレーターチャイナ」を新設しました。2020年の中国市場でのアステラス製薬の売上高は620億円。同年に投入した主力製品「イクスタンジ」で目標の1,000億円を目指します。中国市場で売上高が最も多い日本の製薬企業はエーザイで850億円。

アステラス製薬CEO・安川健司氏が語る同社の経営戦略とM&A(動画)

50代でメガファーマのCEO(最高経営責任者)となった安川氏が語る製薬ビジネスの仕組みと戦略。『得意分野(以前のアステラスでは泌尿器)で生き続けようとすると「出口」が固定されてしまい、新しい発想が出てこない。』『新しいプロジェクトを立ち上げる時に既存の部門に入れると前例主義に固執する管理職に新しいアイデアが潰されるリスクがあるため、独立した部署を新たに作る』…など製薬企業とは関係ない業種の方でもためになる話が一杯。

10年前のアステラス製薬:ベシケア、セレコックスが好調

2012年3月期の売上は、前年比2%増の9,690億円となりました。売り上げ増加が最も顕著だった過活動膀胱治療薬「ベシケア」はグローバル売上が100億円増加して970億円となり、日米欧における同市場のトップを占めています。米国市場ではグラクソスミスクラインとのコ・プロモーションを終了した2011年12月以降も販売が好調です。

2011年9月には世界初のβ3アドレナリン受容体作動薬となる過活動膀胱治療薬「ベタニス」を国内で発売しました。同剤は2012年10月に米国でも製品名「ミラベトリック」として発売、欧州では製品名「ベットミガ」として承認されました。同社では、抗コリン剤である「ベシケア」と合計で600億円増となる世界売上1,600億円を目標としています。

アステラスの国内最大製品であるコレステロール低下剤「リピトール」は、競合品「クレストール」の市場シェア拡大、メバロチンに対する後発品の増加や、2012年4月の薬価改定での長期収載品の追加引き下げなどの影響を受けて売上の減少が続いています。

高血圧症治療薬「ミカルディス」の単剤売上高は減少しましたが、利尿薬との配合剤「ミコンビ」と、カルシウム拮抗薬アムロジピンとの配合剤「ミカムロ」との合計では、増加となっています。しかし、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)市場では、1位の「プログレス(武田薬品)」、2位「ディオバン(ノバルティス)」に次ぐ3位の座を競う「オルメテック(第一三共)」との差は広がっています。

その他では消炎鎮痛薬「セレコックス」、喘息・COPD治療薬「シムビコート」、抗菌薬「ジェニナック」、骨粗鬆症治療薬「ボノテオ」といった新製品の売上は200億円増えて700億円となりました。また、精神・神経領域では睡眠導入薬「マイスリー」、総合失調症治療薬「セロクエル」が好調です。

さらに、フェリングから導入したGnRH受容体アンタゴニストの前立腺がん治療薬「ゴナックス」を2012年8月に発売しました。オンコロジー領域への進出は海外で先行しており、ロシュに導入している「タルセバ」の特許料収入と米国での共同販売、前立腺がん治療薬「リュープロレリン」の後発薬「エリガード」で470億円売り上げています。

アステラス製薬の国内売上高上位10品目はアライアンス製品を含めて、全てがグローバル製品である点は注目されます。国内では海外市場では通用しない製品が主要品目となる企業が多い中、同社の自社開発、製品導入の実績は特筆に値します。

国内の新薬開発では、2012年にはRLS(むずむず脚症候群)の治療薬「レグナイト」、高リン血症治療薬「キックリン」が発売、喘息治療薬薬「シムビコート」がCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の効能追加に至りました。

剤形追加・適応拡大での承認取得では骨粗鬆症治療薬「ボノテオ」の月1回製剤が注目されます。ビスホスホネート系骨粗鬆症治療薬の競合品である「フォサマック/ボナロン」、「アクトネル/ベネット」などとの競合条件がいよいよ整うものと期待されます。

グローバル市場では、中期経営計画で重要領域と位置づけてきたオンコロジー領域が大きく進展しました。2012年9月には米バイオベンチャーのメディベーションから導入した前立腺がん治療薬「エクスタンディ」が申請から3ヶ月強の記録的な速さでPDA承認を取得、さらに腎細胞がん治療薬「チボザニブ」の承認申請をFDAへ提出しました。