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製薬企業の経営管理を担う法務部と財務部の業務

安全性に関する監査も大事な仕事

他の業種で製造される製品と比較して医薬品が高付加価値とされる理由は、医薬品には数多くの特許や科学データなど高度な知識と専門的な情報が含まれているためです。

医薬品を開発するプロセスで取得する特許には、医薬品の化合物を発明したことで得られる物質特許をはじめ、疾病の治療用とを特定する医薬特許、製造方法に関連する製法特許などがあります。

また、容器や包装に実用新案権(製品の形状、構造等に関する考案を独占的に行使できる権利)が登録されることもありますし、デザインやマークには意匠権、商品名やブランド名には商標権が与えられます。そのほか、製薬業界では、これらの権利の譲渡や貸与、別の技術との交換といった多様な契約関係も発生します。

そこで、これらの知的財産権や技術、権利が侵害されないように監視や防衛措置をとるのが、製薬企業の法務部門の業務です。医薬品の成分は誤って使用すると訴訟に発展するケースもあるため、医薬品の適正使用を促進するための添付文書の内容と法的規制の整合性の確認を行うのも、法務部門の重要な業務となります。

他の製造業に比べて新商品の開発に際してコストと時間を要する製薬業界は、投下した資金を収益として回収するまでに非常に長い時間がかかります。そのため、銀行からの資金の借り入れ→投入→支払い→販売→返済というサイクルの展開が長期間かけて行われるので、一般の企業に比べてより綿密な収支コントロールが求められます。

さらに海外に子会社を抱えている企業の場合は、連結決算も含め、国際的な会計基準に合わせた複雑な会計処理が必要となります。また、株式の時価評価や情報開示を常時必要となるため、製薬企業の財務部門の担当者は、高度な業務遂行力が求められます。

国が推進する医療費抑制策によって薬価の上昇にも歯止めがかかり、外資系の国内シェアの市場拡大など、製薬業界を取り巻く環境が厳しくなるなか、経費圧縮と業務の効率化をいかに推進するかも財務部門に課せられた重要な課題です。

知的集約・高付加価値型の医薬品産業

発明者の知的財産権を保護する特許制度は創薬に大きな影響を及ぼします。以前は創薬に関する特許は化合物の製法や物性に関するものでしたが、1976年に物質特許制度が導入されて以来、特許権を確立するための戦略は製薬企業にとって非常に重要なものとなっています。

創薬における特許として物質、製法、活性構造、実験手法(スクリーニング)、コンセプト、製剤などの特許がありますが、今後は臨床での有効性の証明(第2相臨床試験)による医薬品特許や医薬用途特許(新しい適応症の発見)などの出願も考慮する必要があります。

医薬品産業においては、近年ゲノム及びゲノム機能解析に代表される遺伝子関連研究、バイオサイエンスの進展に伴い、バイオ特許の時代が到来したといわれています。医薬品産業における知的財産権、中でも特許権の重要性に対する認識が高まっており、各企業においても特許についての考え方が充実してきています。

特に医薬品は通常「一商品一特許」であるため、その価値は極めて高く、知的創造の成果が経営上最大の効果になるような出願、管理、維持、活用を行うこと、すなわち、出願先の選定、権利化の時期、係争対応、海外出願、なかでも120カ国以上が加盟している特許協力条約(PCT)出願の考え方、優先権主張の行い方などを、戦略的に考えることが大切となります。

後発医薬品の参入をめぐる特許侵害訴訟が相次ぐ

2012年は、武田薬品の2型糖尿病治療薬「アクトス」、ファイザーとアステラス製薬のスタチン系高脂血症治療薬「リピトール」などの後発品参入めぐる特許侵害訴訟が注目されました。

武田薬品は「アクトス」について、同剤とαGI、SU、BGの各薬剤との「組み合わせ特許」は2017年まで存在し、後発品の発売は特許侵害に当たるとの主張を展開しました。

2011年6月の収載を目指していた27社のうち、エルメッドエーザイなどの9社は、収載・発売を1年先送りするなどの内容で武田薬品との間に和解が成立したものの、和解を拒否した残りの18社は発売に踏み切りました。

これを特許侵害と判断した武田薬品は、18社に対する製造・販売差し止めを求める訴訟を東京・大阪地裁に起こしましたが、大阪地裁は特許侵害は認められないとの判決を下しました。

同社はただちに知的財産高等裁判所に控訴しましたが、沢井製薬が特許庁に起こしていた無効審判請求において、全ての組み合わせ特許を無効とすることが確定的となったため、控訴を取り下げました。

2013年2月には東京地裁も大阪地裁の判決内容を踏襲するかたちで、特許無効の判決を下しました。これにより沢井製薬、東和薬品、田辺三菱製薬、ニプロファーマをはじめとする18社は引き続き後発品の販売ができることになりました。

アクトスの年間売上高は500億円超える時期もありましたが、後発品参入やDPP-4阻害剤の登場、膀胱がんリスク問題などを受けて売上は半減以下になる見通しです。武田薬品は糖尿病領域の主力製品をDPP-4阻害薬「ネシーナ」にシフトしつつあります。

ファイザーの高脂血症治療薬「リピトール」については、同社が2016年7月まで「結晶特許」が有効であると主張してきました。2011年11月に後発品を収載した5社のうち4社は異なる結晶形の原薬を使用するなどの方法で特許への抵触を回避しましたが、特許そのものの無効を訴えたサンドは後発品の収載に踏み切りました。

ファイザーは、東京地裁に製造販売や輸入の差し止めを求める訴訟を起こしましたが、判決はまだ出ていません。特許庁は2011年11月、サンドが起こしていた無効審判で、特許の有効性を認める審決を出しましたが、知的財産高等裁判所は2012年12月、特許庁の審決を取り消す逆転判決を下しました。判決が確定すれば特許が無効になるファイザーは最高裁に上告を行っています。

かつては1,000億円以上の売上を誇った「リピトール」でしたが、後発品の参入などの影響もあり、2012年度は718億円と大きく落ち込みました。既に10社以上が後発品を発売していますが、ファイザーから訴えられているのは特許の無効を訴えたサンド1社のみですので、今回の訴訟は他の後発品に影響はなく、売上減少に歯止めがかかりそうにありません。