外資系企業が相次いで日本市場に参入して激しいシェア争いを行っているように、日本の大手製薬企業も海外進出に莫大な資金、人材を投入にしています。世界第2位の市場規模を誇る日本ですが、国内で限られたパイを争うよりも、海外市場で新たな販路を切り開いたほうが企業成長に繋がると考えているからです。
海外へ進出するメリットして見逃せないのが、新薬をいち早く市場へ送り出すことができるという点です。海外の大手製薬企業と肩を並べる開発力を有したとしても、制約が多く、治験環境が整っていない日本では最終的なデータが揃いづらいのです。
近年は日米欧で治験データを共用できるという道を開かれましたが、今度は日本での治験が減るという現象が起きたため、日本での新薬開発は時間的なロスが大きくなりました。ならば海外で開発した新薬を、設備の整った海外の現地法人で生産し、販売しようというのは当然の選択です。
国内で医薬品の売上高第1位の武田薬品も当然、海外進出を加速させており、世界14カ国に17の自社工場を保有しており、2011年度の売り上げ実績では国内の7334億円に対し、欧米合計も7280億円とほぼ同等になっています。
そのほか、海外進出を積極的に行っていた山之内製薬と藤沢薬品工業が合併して誕生したアステラス製薬、海外売上高比率が国内第1位のエーザイ、統合失調症治療薬「エビリファイ」が大ヒットした大塚ホールディングスなどが、海外実績のある企業の代表といえます。
海外進出の形態は、現地での子会社の設立、工場・研究所の開設、外国企業との合弁プロジェクトの立ち上げ、ベンチャー企業の買収などさまざまです。海外の進出先としては、世界一の市場規模を誇り、技術面でも制度面でも最先端をいくアメリカがトップ、次いでヨーロッパ、最近は中国をはじめとするアジア各国、南米、アフリカなども新たなターゲットとなっています。
製薬企業の海外進出の動きが活発になるに伴い、重要性が高まっているのが、海外での医薬品の販売計画の立案、国外の子会社や工場、研究所の経営面での問題解決、輸出の調整などを担当する海外部門です。海外部門の業務はそのほかにも、海外で開催される学会での自社製品の研究発表のサポートや、新拠点の立ち上げプロジェクトにも携わるため、海外部門の担当者にはネイティブに匹敵する互角力、医薬品に関する専門知識、ビジネスセンスが求められます。
海外での販売実績が芳しくない製薬企業は収益全体も伸び悩むことはデータに現れており、今後いかにして国際的なサプライチェーンを拡充できるかが、製薬企業の将来を左右するといっても過言ではありません。特に13億人の大市場が未だ開拓されていない中国への関心は非常に高くなっています。
海外事業の比率が高い国内6社(アステラス製薬、エーザイ、大塚ホールディングス、第一三共、大日本住友製薬、武田薬品)の2011年度における海外展開は、大型製品の特許切れ問題や円高の影響を受け低迷しました。しかし、ブロックバスターへの成長が期待できる製品の登場、新興国市場への開拓も進んでいることなど、新たな局面を迎えています。
現在、世界市場で最も売上が高い日本の製品は、大塚ホールディングスの抗精神病薬「エビリファイ」で、2011年度は米国で3,161億円となっています。処方数が現在もなお増えていることと、2012年度後半から為替レートが円安傾向に転じていることもあり、更なる売上が期待されています。
世界戦略品として今後が期待される製品の一つに、帝人ファーマの痛風・高尿酸血症治療薬「フェブリク」が挙げられます。武田薬品やアステラス製薬のほか、多くの海外企業に販売委託を行っており、全世界で1,000億円以上の売上を計画しています。
米国で発売され、初年度(2011年度)に売上8,600万ドルと上々の滑り出しを見せた、大日本住友製薬の非定型抗精神病薬「タツーダ」も大型化を狙っています。同製品はMRを積極的に投入するなどプロモーションへの投資しているため、当初は販売経費が利益を圧迫すると心配されましたが、安定した売上を確保しています。
一方で、市場環境が厳しさを増しているのが特許切れを迎えた製品です。武田薬品の糖尿病治療薬「アクトス」は、後発医薬品の参入と膀胱がんリスクの顕在化におyって売上は低迷しています。国内を含め4,000億円を売り上げる時期もありましたが、2012年度は1,000億円規模に低下しています。
パテント・クリフ(特許切れによる急激な売り上げ減)の影響を最も強く受けたのが、エーザイのアルツハイマー型認知症治療薬「アリセプト」です。後発医薬品の攻勢を受け、2011年度の米国売上が1,534億円から114億円と一気に減少しました。